ミトコンドリアの膜透過装置TOM複合体の相互作用地図の作成により、タンパク質搬入口として働く仕組みを解明した論文が、Science誌にpublishされました!!

 ミトコンドリアは細胞内で生命活動に必要なエネルギーを産生し、ヒトではその正常機能がヒトの健康につながります。ミトコンドリアの機能低下は老化や様々な病態と関連することが知られています。正常機能のミトコンドリアを維持するためには、ミトコンドリアの外(サイトゾル)からミトコンドリア内にミトコンドリアを構成する1000種におよぶタンパク質を配送する必要があります。このミトコンドリアへのタンパク質搬入口として働くのが、複数のタンパク質が組み合わさって出来たTOM複合体です。今回研究グループは、TOM複合体でタンパク質の通り道となるTom40と他のタンパク質、およびTOM複合体を通過中の前駆体タンパク質との精密な相互作用地図を作成することに成功しました。この相互作用地図から、Tom40がつくる円筒状(βバレル)構造の孔を前駆体タンパク質が通ること、この孔の内側には通過するタンパク質の性質に応じてカスタマイズされた通り道が複数用意されていること、Tom40の孔の出口には、通過してきた前駆体タンパク質を受け取るシャペロンタンパク質を集める仕掛けがあることが分かりました。さらにTOM複合体にはTom40から成る孔が3つの完成型(機能複合体)と、2分子のTom40から成る孔が2つの準備型(Tom40組み込み用複合体)という2つの状態があり、それらの状態を往き来することで、常に新しいTom40をTOM複合体に組み込み、正常機能を維持できることが明らかになりました。ミトコンドリアへのタンパク質搬入のメカニズムの解明により、ミトコンドリアへのタンパク質配送に関連する病気の治療法の開発や、ミトコンドリアへのタンパク質配送の効率を制御することで老化を防ぐなどの可能性が開けることが期待されます。
 なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術(研究総括:田中 啓二(東京都医学総合研究所 所長))」における研究課題「ミトコンドリアをハブとする構造機能ネットワークの解明」の一環として行われました。

論文)http://www.sciencemag.org/content/349/6255/1544.abstract
産総研のホームページ)http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150925/pr20150925.html
プレスリリース)http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG27H0Q_X20C15A9TJM000/

2015年9月25日